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『お父様、お父様。』
舞い戻る記憶。蘇る感触。
『何故、斬らねばならないのですか。』
やめろ。
黛は声無き声で叫ぶ。
もうあの頃の俺じゃない。
血塗れの顔、体、刀。身の丈に合わない刀を強く握りしめていた。違う。離せなかった。刀に吸い寄せられたように、両手が握ったまま離せなかった。
怖かった。刀が支えだった。
『黛。お前は戦わねばならぬ。』
何度も頭を反復する声。
『お前が望んだのだ。刀となる事を。己の心身と敵の魂魄を糧に鍛え上げられた刀になる事を。刀は戦わねばならぬ。斬らねば刀は刀として在る事が出来ぬ。違えるな、逆らうな。これが宿命だ。』
知っている。分かっている。
恐れなど、持ってはならない。
心が邪魔をするのなら、心を制御しなくてはならない。
そうしなければ、刀になれない。
、、、、
勝てない。
黛はゆっくり呼吸した。理性を血液に乗せて循環させる。暴走する肉体、精神を冷却する。
「…俺は刀だ。」
「あぁ?」
飛白は目を細めた。思わず抑え込む手に力が入る。
「負ければ朽ちるのみ。勝たねば、ならない。ならないんだ。」
黛は虚ろな目をしている。酸欠で錯乱しているかと飛白は考えたが、黛の血色は良くなっている。
「妙な呪文となえんなや。気味が悪い…」
刹那、二人を光のリングが囲んだ。
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