9.君と

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「どうしてそんな事が分かるの?あの子、確かに雰囲気は君と似ているけど。アトモスフィアに似た魔法も使えるみたいだし。」 「分からないです。でも…何かを、感じる。」 ヲリエはアッシュブラウンの髪を撫でた。 「それは、君の症状に何か進展があったって事?」 「…俺の中の誰かが大きくなっている、気がします。今日も、スヴェインって人と戦った時にまた大きくなった。」 「スヴェインと…ね。アイツ、元気かな…。」 ふとヲリエの瞳が懐古に駆られたが、すぐ切り替わった。 「シオの中の誰かは、シオがこれまで会った事が無い人間、経験した事が無い出来事を記憶している。そうだね?」 シオはコクリと頷いた。 「それも全部、過去の事?」 「はい、全部、過去の事です。」 ヲリエは顎に手を当て一思案する。シオは顔を強張らせた。核心に近付いている予感がする。 「まさか、ね…。」 ヲリエはシオを見詰めた。ヲリエには自分がどう見えているんだろう。ヲリエの黒い瞳にシオの顔が映っている。自分の顔じゃないように思えた。 「…何ですか、俺は。」 シオから訊いた。力が抜けた声だ。端々に震えがある。 訊いたヲリエはいきなり笑い出した。シオは拍子抜けする。 「何?!そんな小動物みたいに震えちゃって!かーわいい!」 無傷の左腕でシオを抱えて、ヲリエは快活に笑う。怪我人でも腕力は健在だ。シオは訳が分からずもがく。
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