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「別にシオがなんだろうがあたしは気にしないって!きっと皆も、君の周りの人達も。」
ヲリエの言葉にシオは当惑する。シオにその言葉は甘過ぎる。疑ってしまう。二面性があるんじゃないかと。
益々冴えなくなるシオにヲリエは上がった調子を抑えた。
「…ごめん、軽率だった。生半可な問題じゃないもんね。」
「俺は…いいんです。」
シオがポツリと云った。
「皆は優しいし、信じてるから…それはいいんです。」
「いいね。信じてくれる相手を信じられるのは、強い証だよ。」
「俺が怖いのは…俺が俺で無くなる事なんです。」
シオの目は沈む。物悲しい陰の中に。
「皆が俺を信じてくれていても、それが分からなくなったら…。サンドハーストで生きてきた記憶があっさり無くなったら…怖い。」
「好きなんだ。今の生活が。」
「はい。」
「自分は?」
「え?」
シオは顔を上げた。ヲリエが見詰めている。真摯な眼差しだ。
「シオは、自分の事が好き?」
「俺は…」
好きじゃない。
シオは続きを云えなかった。
前からずっとそうだ。
記憶が無く、得ないの知らない力を持っている。
ある意味、世界で一番良く分からない存在。
シオが周囲に己の力点を置いていたのは、自分そのものを遠ざけて起きたかったからかもしれない。
無意識の嫌悪が、そうさせていたのかもしれない。
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