9.君と

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「別にシオがなんだろうがあたしは気にしないって!きっと皆も、君の周りの人達も。」 ヲリエの言葉にシオは当惑する。シオにその言葉は甘過ぎる。疑ってしまう。二面性があるんじゃないかと。 益々冴えなくなるシオにヲリエは上がった調子を抑えた。 「…ごめん、軽率だった。生半可な問題じゃないもんね。」 「俺は…いいんです。」 シオがポツリと云った。 「皆は優しいし、信じてるから…それはいいんです。」 「いいね。信じてくれる相手を信じられるのは、強い証だよ。」 「俺が怖いのは…俺が俺で無くなる事なんです。」 シオの目は沈む。物悲しい陰の中に。 「皆が俺を信じてくれていても、それが分からなくなったら…。サンドハーストで生きてきた記憶があっさり無くなったら…怖い。」 「好きなんだ。今の生活が。」 「はい。」 「自分は?」 「え?」 シオは顔を上げた。ヲリエが見詰めている。真摯な眼差しだ。 「シオは、自分の事が好き?」 「俺は…」 好きじゃない。 シオは続きを云えなかった。 前からずっとそうだ。 記憶が無く、得ないの知らない力を持っている。 ある意味、世界で一番良く分からない存在。 シオが周囲に己の力点を置いていたのは、自分そのものを遠ざけて起きたかったからかもしれない。 無意識の嫌悪が、そうさせていたのかもしれない。
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