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「なかなか出来ないんだよ。そういう生き方。あたし達はまだ若いけどさ、サンドハーストの生徒としては年長な訳じゃん?そうなると生き方に融通が利かなくなるんだよね。」
ヲリエは自嘲する。
「自分のやり方が正しいって信じて三年間やってきたワケだからさ。意固地になっちゃうんだ。人の云う事シカトして、自分の信じる道を行く。しかも、自分は平気なつもりでも、本当は心の片隅に疑問や恐怖を感じている自分がいる事もスルーしてんの。大切にしたい自分しか、大切にしてないんだ。」
シオは頷く。自分にも当てはまる気がした。
「そんな人って、脆いんだよ。誰かの制止や過去の自分とのギャップで行き詰まった時にすぐ立ち止まってしまう。大切な自分以外をどうするか分からなくて…最悪壊れてしまう。
だから受け入れなきゃいけない。好き嫌い関係なく、自分に関わるありとあらゆるものを受け入れて、答えを出さなきゃいけないんだ。」
「チーフも…経験しているんですか?」
ヲリエは頷く。
「誰もがしてるよ。君くらい特殊な例は少ないだろうけど…似たような経験は皆している。誰もが自分以外の誰かに揺り動かされている世界だから。」
「自分以外の誰かに…。」
「だからシオ、優しくしてあげて。自分にも、誰かにも。」
シオの目が不意に潤んだ。乾いた土壌に雨粒が落ちたように。涙が落ちないように、唇を噛み締めた。
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