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「ごめんなさい…。」
「どうしたの、いきなり。」
「俺がバカだったから…。チーフも…怪我して…。」
「バーカ。これは自己責任。」
ヲリエは呑気な口調で返すが、シオはそれで収まらない。鼻を啜る。華奢な肩が微動した。
ヲリエはゆっくりシオの頭に手を回し、肩に抱き寄せた。
「絶対逃げちゃダメ。」
シオの顔に肩が当たる。涙で服が濡れるのをシオは引け目に思ったが、ヲリエは気にしない。優しく、柔らかく、シオの頭を押した。
「君にとって、今は自分を大切にする時だから。傷付けないで、逃げないで。辛くても向き合って、ゆっくり自分のものにしていけばいい。その間、あたし達で君を支えるから。」
「はい…。」
「よし。じゃあ、後は好きにしてていいよ。今日は一日、付き合ってあげる。」
シオが嗚咽を零し始めた。肩が大きく動く。ヲリエより小柄な体だが、嗚咽は大きかった。
この小さな体にどれだけのものを抱えているんだろう。シオは記憶が無いと云う。だからシオは空っぽだと云う。その反動で好奇心が強かったのだろうか。足りないモノを自身の中に取り入れようとする無意識の働きかけだろうか。
シオは友人が多い。信頼しあっている。だが自身について語りたがらない。どこかで関われる事を拒んでいたのだろう。自分も知らない自分を知るのが怖かったのだ。
シオも独りだった。
自分の心に仕切りを作って、独りになっていた。
気付けて良かった。
ヲリエはシオの頭を撫でながら、安堵した。
もう、どんな瞬間も、逃せないからだ。
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