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「君もランチかい?おいでよ、一緒に食べよう。」
昼食の事など頭から抜けていたが、断れば屋上に居辛くなる。シオは流されるままに頷いた。
「あれ?何も買ってないんだ。まぁいいよ、好きなの取って。」
レイルがバスケットを取ってシオに渡した。シオは躊躇いがちにレイルの隣に座る。月虎はシャドーボクシングに夢中でシオに気付いていないようだ。
「どうした?なんかよそよそしいね。」
バスケットを前に手を伸ばさないシオにレイルは首を傾げた。
「なんか距離感感じちゃうなぁ。」
「いや、あの…」
シオはしどろもどろに言葉を濁らせた。アインの登場で訳が分からなくなったシオにレイルの存在はインパクトが強すぎた。初めて会った時のような錯乱がシオを掻き乱す。
「まぁ会ったの久し振りだもんね。緊張しちゃうのは仕方ない。」
レイルが月虎に視線を戻した。熱が入った月虎のシャドーボクシングは佳境に入っている。見えない敵に月虎は凄まじい勢いで拳を振るう。
「俺は会いたかったよ、君に。」
虚を突く発言にシオは目を見開いた。レイルはいたずらっぽく微笑むが目は真剣だ。
「一つ訊きたい事があるんだ。リカルドから聴いてね。NOISE、七不思議を調べていたんだって?ジャクリーンが捕まったらしいね。」
「…はい。」
あの日の合宿、リカルドに捕まったジャクリーンは一晩で解放された。クローズドホームに侵入したが機密を盗んだ訳では無い事に加え、シオが倒れた事態になったので不問と云う事で釈放されたのだ。
レイルが聴きたいのは後半のくだりだろう。ジャクリーンが捕まった話など彼からしたら些末な問題だ。今更尋ねる内容でも無い。
シオはそう察していた。
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