3.インディケイション

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様子が変わったのはシオだけでは無い。積極的に接触してきた筈のアインはすっかり減衰していた。強張らせた表情の裏に隠せない動揺が垣間見える。 「私は…」 アインはゆっくり唇を動かした。形の良い唇はすっかり血の気が引いている。声も掠れていた。 「私は、君と同じ」 「悪いね、邪魔するよ。」 唐突にカーテンが開き、ペネロペの顔が覗いた。痩けた頬の上に塗られた化粧がどこかチグハグな印象を与える。マスカラとアイシャドーに彩られた目は皺の中でやたら存在感を主張している。年齢と外観のわりには目力は強かった。 「騒ぐなと云ったろ、シオ。まぁ元気な証拠だね。回復したならとっとと出て行きな。其処は病人の特等席だ。」 「引っ込んでろよ!」 乱入者にもシオは容赦なかった。ペネロペにありったけの威圧を込めて怒鳴る。だがペネロペは歯牙にもかけない。 「黙りな、シオ。あたしゃ此処のビッグ・ママだ。云う事聴かないなら叩き出すよ。」 毅然と対応するペネロペ。シオの威圧を静かな覇気で包み込んでいた。 分は彼女にある。 シオは本能的にそれを悟った。ペネロペの性格は知っている。がさつで、のらりくらりとしているようでかなり豪胆だ。ちょっと大声を出したくらいで怯むような人間じゃない。逆に益々冷静になるタイプだ。 そんな人間を相手に感情的になった時点でシオの負けだった。だがシオは易々と認めなかった。ベッドの上で座を占めたままだ。体裁が悪いのは分かっているがスゴスゴと引き下がるのも面目が立たない。 独り善がりなプライドがシオを意固地にさせていた。 彼はただ黙って、なけなしの威嚇を装ってペネロペと対峙していた。
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