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保健室から出たアインはひたすら教室に向かって歩いていた。ひたすら、前へ前へと足を運び続ける。
足がもつれた。手を壁に置き、フラついた体を支える。歩く事に割かれていた思考が平静に戻る事で、途端に惨めさが蘇る。シオの前で狼狽える事しか出来なかった自分を思い知る。みっともない自分を叩き潰してやりたかった。だが平静になった思考が、遮二無二に暴れる無意味さを知らせてくる。
アインは再び歩き出す。何をする訳にもいかないと知ると尚更気が曇った。
アインは教室へ続く階段の手前でふと立ち止まった。
一人の少女が階段から降りて来た。スラリとしたプロモーション、そして女性らしさを体に備えている。栗色のボブヘアーに澄んだ緑色の瞳。顔立ちは端正で、気品がある。
見覚えがあった。
同じクラスのシェリル・ハウルロイドだ。
アインは目を合わせただけですぐ反らした。彼女からしたら興味の対象外だからだ。
「アイン、どこ行ってたの?」
アインは構わず階段を上った。シェリルを過ぎる。
「ねぇ、いいかな?」
邪険に扱われてもめげずにシェリルはアインに追随した。
「放課後、来て欲しい所があるんだけど。空いている?」
「放っといて。忙しいの。」
アインは頑として取り合わない。シェリルはアインの顔を覗き込みながら、用件を伝えようとする。
「今日じゃなくても、明日でもいいんだけど。」
「君は、何?」
「あ、自己紹介まだだったね。私はシェリル・ハウルロイド。サンドハーストの学生雑誌NOISEの編集やってるの。」
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