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「面倒だと思ってはいけないよ?」
からかうように云ってきた理事長に対し、カークスは素知らぬ顔をした。
「理事長の肝煎りらしいじゃないですか。安心して扱えますよ、全く。」
「私の肝煎りじゃないよ。彼女達の肝煎りだ。まぁ、様子を見てやろうじゃないか。」
シニカルなカークスの言葉を理事長は流した。本意を訊けなかったが、カークスはそれ以上問わなかった。はぐらかされるのは目に見えていた。
「シオの様子はどうかね?」
アイスフラッペを平らげ口を拭いているのだろう、ナプキンを持った右手をフードに突っ込みながら次は理事長が尋ねて来た。
「気になりますか?」
「そりゃあね。昨日までユニオンに出張していたからな。全く冗談じゃないよ。貴重な休暇を老人の為に費やすなんてさ。」
「御自分で会いに行けばよろしいのに。監察員の寮にいますよ、此処最近は。」
呆れ気味に返すカークスに理事長は手を振った。
「ダメダメ。私が行ったら成長しない。」
「何故ですか?」
理事長はナプキンを出して丸め、足下のゴミ箱に放った。
「カークス、確かに私が真実を語り、それに見合った助言をやればシオに道筋を与えてはやれるだろう。だが今のシオの状態を解決するにはシオが答えを出し、向き合う構えを自分で作らなきゃならない。最低限、自分の意志で、自分の足で私の元へ来るくらいにはならないとね。甘えや慰めを求めないという条件付きで。」
「手厳しいですね。」
「保護者としての義務さ。」
理事長の得体の知れない顔が、フードの奥で笑っているとカークスは感じた。今のシオを期している、余裕を持った笑顔なのだと、察した。
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