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「リク…。」
立ち上がったリクにエリスはすり寄った。リクは思わず緊張する。揺れた黒髪から良い香りがした。
揺れる大きな瞳と、憂いを噛む唇を近付けて、エリスは云った。
「辛かったら幾らでも取りなすから。埋め合わせもするし…ゴメンね!」
「エリス。」
リクの声が低くなった。
「普通にしょっぴけばいいんだよ。お前はそうする立場で俺はそうされる立場。普通にやりゃいい。俺は構わないから。
分かってるよ。」
ちょっと説教臭かったかと、リクは自省した。こういう時に優しい言葉を並べられる程器用じゃない。
「…分かった。そうだね。ちゃんと、立場を分からなきゃ。」
だがエリスは微笑んだ。憂いは幾分か抜けている。
「俺なんかに気を使わなくていいんだぜ?」
少し安堵したリクが何気なく云ったのを受けて、またエリスは憂いを顔に浮かべた。
しまった。
今度は何を間違った?
リクは眉を顰めてまた自省の念に駆られる。だが結論が出る前にエリスが「行こっか」と先導し始めた。
「あ、ああ。悪いな、アレン。」
「いいよ。後で連絡頂戴ね。」
「おう。」
有耶無耶なままエリスに付いて行くリクをアレンは見送った。
碧眼が深く光を湛えた。
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