29.ナイト・サイド・リベリオン

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「ウェルさん!」 ヲリエがウェルキンに駆け寄った。ウェルキンの疲労はかなりのものだった。血色が悪くなっている。 「この力は・・?」 「アトモスフィアだ。俺が使うのはインスタントだけどな・・。」 ウェルキンは笑って見せ、ヲリエの手を握った。 「だけど、これは本物じゃない。俺は器用だから、シオより形を上手く作れるだけだ。本当の力はシオじゃないと解放されない。それに・・これは、戦う為の力じゃない。」 「どういう事・・?」 「いずれ、分かる。・・いや、もう知っているよ。」 ウェルキンの笑顔には自信があった。体は疲れているが、心は健常だ。ヲリエはホッとした。 不意に、ヲリエの体に衝撃は走った。なんだか分からなかった。ふと目線を落とすと黒い亀裂が見えた。笹の葉の形をした亀裂はどこまでも深い黒だった。それが胸を貫いている。亀裂を認識した途端、ヲリエの体が痛みと虚脱感に包まれた。黒い亀裂が消えた瞬間、ヲリエは血を流しながら崩れ落ちた。 「ヲリ・・・?!」 ウェルキンは倒れかけたヲリエの体を抱き留めた。ヲリエの体から力が抜けている。血と共に生気が抜けていった。ウェルキンはすぐさま回復魔法で傷を塞いだ。出血こそは止めたが、ヲリエは回復の兆しを見せない。内部へのダメージの回復にはちゃんとした治療が必要だ。 「くっ・・!!」 ウェルキンが目線を上げた。レイルが立ち上がっていた。息を乱しながら、右手を向けていた。プラズマでは無いが、レイルが使った魔術だろう。 「レイル・・お前・・・!」 「駄目ですよ・・ウェルさん。」 レイルが笑った。純真な笑みだったが、陰があった。 「勝っちゃいけない、あなた達は。勝つのは・・俺でなきゃいけないんだ。」
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