29.ナイト・サイド・リベリオン

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シオは、透けた壁の中にいた。正確には透明な、ガラスのような壁が織りなす蓮の蕾の形をしたオブジェの中にいた。周囲は真っ白な空間だ。シオとオブジェ以外は何も無かったが、潺のような囁きが聴こえていた。姿の見えない大勢が節操無く会話している。 「ん・・・」 シオは目を覚ました。起き上がる。辺りの景色が変わっているのを知って、シオは戸惑ったが、見た事のある景色だと分かって落ち着いた。    、、、、 此処は自分の中だ。魂の奥底、心の部屋。何も無く、何かがあるシオの心だ。 囁きに耳を澄ます。一つ一つは言葉として成立していないが、メッセージは伝わってきた。テレパシーのように。 シオは気絶し、意識が此処に落ちてきた。眠ってしまったシオの意識の代わりにウェルキンの残留思念が体を動かしているらしい。以前にも似たような事があった。アンセムと戦った時だ。 シオは瞼を閉じ、意識を集中させた。ウェルキンがシオの体を通して感じている事、ウェルキンの思考が流れ込んでくる。 悲しみが湧いてきた。シオは暗鬱な気分になった。レイルは没入している。自身の念に囚われ、此方からは何を呼びかけても聴き届けはしないだろう。 レイルは敵。 あまりに明確な烙印にシオは虚しさを覚える。止めたかった。解り合いたかった。レイルと触れ合う事で垣間見た彼の優しさを濁らせたくなかった。だが、望みは粛々と消えつつある。解り合う余地が無くなり、油断すれば敵意すら生まれそうな程、レイルが異なり、遠く、恐ろしい存在にすら見えてきた。 シオは振り払う。 諦めたくなかった。諦めれば、何かが終わってしまう気がした。 それも、取り返しのつかない何かが。
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