29.ナイト・サイド・リベリオン

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「これだけは・・見せたくなかったなぁ。」 レイルは両手の人差し指を合わせ、離した。すると糸のような黒い針が現れた。針は30cm程の長さがあり、よく目を凝らさなければ見えない程細く、鋭い。 「グランドヴェスティージ。空間を切り裂き、発生した虚数空間に物体を吸収して消滅させる魔法。奥の手でさ。プラズマと違って使い勝手が難しい上にダメージが大きすぎるんだ。ちょっとした加減の間違いで人を殺めてしまう。」 倒れたヲリエを助け起こし、声を掛けているウェルキンを余所にレイルは悠々と語り続けた。 「急所は外した。ヲリエさんも死ぬ事は無いだろう。だけど胸部の肉やら血管やら、全てを完全に消失させたからね。すぐには回復しないよ。だからすぐこちらに引き渡して・・」 「何でだよ・・!」 ウェルキンが唇を戦慄かせた。レイルが高説を中断する。 「何で、こんな事するんだよ・・・レイル・・・!」 ウェルキンの瞳は複雑な感情を湛えていた。はち切れんばかりの怒りが顔を覗かせながらも、それを抑圧する理性が塞がっていた。感情を爆発させようとしながらも抑えている必死な面影をレイルは捉えた。 「敵だからですよ、ウェルさん。」 「敵・・?俺達が、敵だって云うのか・・・!」 「そうですよ。連れ添った過去の長さに関わらず、親しさを深さに関わらず。此処にいるのは俺と敵。それだけですよ。」 レイルの瞳に陰りや濁りは無かった。あくまで涼やかに、透き通るようなコバルトブルーを輝かせているだけだ。 怖ろしい程屈託が無かった。これまでの戦闘の中で彼は怖ろしい程澄み、練磨されていた。敵意をこれ程までに涼やかに保っていられるくらいに。あの戦いの過程が彼を此処までにしたのだ。 「レイル・・・!ぐっ!!」 ウェルキンの意識が急激に遠退いた。穴に落ちていくように、景色がどんどん遠ざかっていく。 「なっ・・!」 ウェルキンは自身の自我がシオの魂に引きずり込まれていくのを察した。この体の本来の主であるシオがウェルキンを自身の魂の奥底にウェルキンを退去させたのだ。 「駄目だ、シオ・・・!」 ウェルキンには分かっていた。シオがどうなるのか。 「駄目だぁあああああああ!!!!」 ウェルキンは叫んだが、自身の声がどんどん掻き消えていくのを感じた。ウェルキンが奥底へ完全に落ち切った瞬間、まだ点のように見えていた景色が閉じた。
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