29.ナイト・サイド・リベリオン

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「っ?!」 シオは唖然とした。レイルの姿が無い。触手を幾ら広範囲に拡げても捕まらない。立ち込める青黒い霧の中で忽然と失せたようだ。 「俺から何かが欲しいなら。」 彼は背後にいた。シオが振り返るより早く、青白い斬撃が交叉した。 「ぐがっ…!!」 深く、重い斬撃だった。 シオの体から繁茂していた触手が一斉に粒子化した。辺りを暗い光が照らす。 「絶望を腐るほどくれてやる。」 トワイライトバルムンクを消し、レイルは云った。 「ただし、皆の想いはやらない。一欠片も、一欠片もだ。」 青黒い粒子の濃霧が晴れてくると、そこには気を失ったシオが横たわっていた。先程まで見せていた凶暴さはすっかり消え、普段の穏やかな面持ちに戻っていた。 森は静かになっていた。 ヲリエもシオも沈黙に沈み、ウェルキンは知らない世界に行った。梢が時折揺れる音が聞こえるくらいで、後は静寂だけだった。 レイルは云いようの無い虚しさを覚えた。ずっとこうだった。独りで戦い、独りで勝ち残る。エドガーケースの時も、アマデオの時も。 最後に立っていたのはレイルだけだった。 帰ろう。 レイルは進み出した。 皆がいる所に。フリスがいる所に。 こういう心境に立つ自分が、レイルは堪らなく嫌いだった。
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