30.サイレンス

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「カークス、戻るぞ。私達の仕事は此処までだ。」 「・・・。」 カークスは無言でバルディッシュを回収し、ベルクロフトの傍に立った。 「不機嫌か?」 「別に・・。」 「良い始末書を期待しよう。」 「帰られるんですか?」 レイルが両手にプラズマの蓄積させながら云った。警戒心を解いていない。 「ああ。失礼するよ。後はご自由に。」 「・・良いんですか?宣伝材料にしますよ。」 「好きにすればいい。多少の悪口には慣れている。シオには堪えるかもしれんが、それもまた運命。」 「詰まらないなぁ。そこまで無感動だと。」 ベルクロフトが傘を開き、頭上に掲げた。大量の水が沸き上り、カーテンのように滴り落ちる。 「レイル、私個人の主観だが、私はこの立場を気に入っている。愛情ある歯車、気紛れな傍観者。君達と付かず離れずの距離で接し、見守る。面白い立場だ。」 「冷めているんですね、意外と。」 「違うよ。強く愛しているからだ。」 揺らめく水に遮られ、ベルクロフトの輪郭が歪んだ。 「君達の成長を邪魔しないように、離れながらも誰よりも近くその様を見守れる。これ以上贅沢で夢中になる仕事はそう無いよ。進路の参考にすると良い。」 「悪趣味ですね。」 「確かに、なかなか分かってもらえない。」 ベルクロフトは肩を竦めた。水は既にベルクロフトとカークスの姿を陽炎のように揺らめかせていた。 「では、また。何か相談があればいつでも相談室へ。」 「・・まだ俺達は、あなた達の掌から出ていないって事ですか?」 「君達は既に出ているよ、私達の小さな掌など、とうにね。出なければ、既に握り潰されている。」 あくまで軽薄な口調を保ったまま、水が止まった瞬間、ベルクロフトとカークスは姿を消した。
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