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暗い、部屋。
アスファルトで造られた部屋は廃れていた。窓は閉め切られ、白っぽい蛍光灯が心細く室内を照らしている。不気味と静謐が合わさった様は生活感の無い殺風景を作り出していた。
置かれているパイプ椅子に男が腰かけていた。ダークスーツを纏った男。二十代後半と云った所だろうか。髪形に洒落たカットを施し、無精髭も残さず剃っている。血色も良く、清潔な趣があった。年齢の割には年若い外見だが、醸し出している怜悧さが年齢の割には不相応な老成さを作り出していた。
「実に不愉快。だが愉快。念願叶って捕えてやったのは嬉しいが、面を見ると胸糞悪さが疼き出す。いやあ、因果なものだ。」
男は軽快な口調で語っていた。言葉に憎悪の濁りがあった。
男と向き合っていたのは老人だ。撫で付けた白髪と威厳のある顔立ちが特徴的な、貴賓のある雰囲気を持った老人だ。老人は顔中の皴をより深く陰らせ、男を見やった。
「・・やっとあやつを捕えたのは良いが」
「ひがやああああああああ!!!!!」
老人の言葉を悲鳴が遮った。男の悲鳴だ。老人は眉間に皴を寄せ、うんざりした様子で溜息を吐く。
「この不快な声はどうにもならんのか。」
悲鳴は尚も聴こえる。殺風景な壁にはドアが嵌められていた。薄い壁、薄い扉隔てた向こうから男の悲鳴が聴こえてきた。
「仕方なし。あの卑怯で卑劣な下衆野郎、礼儀なんざ持っちゃいない。だがこの無様な様は垂涎ものだ。今すぐ怖じた顔が見てみたい。」
老人は更にうんざりした顔になった。
「依頼してからのその喋り口調・・それもどうにかならんのか。」
「鏡に向かって罵ってもとんぼ返りというもの。それより今は下衆野郎を見届けるのが先だ。」
「・・もう良い。」
老人は立ち上がった。男も立ち上がり、二人で連れ立ってドアの方へ向かった。
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