31.闇に沈む

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ドアを開けると凄惨な光景があった。 黄ばんだ白いタイル張りの部屋は手術室に似ていた。巨大な電灯が点けられ、手術台が置かれている。その上には金髪で髭面の男が革ベルトで縛り付けられていた。涙や鼻水を垂れ流し、涎を飛ばしながら必死で悲鳴を上げ、助けを求めている。 手術台の傍には回転する自動丸鋸を持つ女がいた。黒いブラジャーの上に薄手の黒いカーディガンを羽織り、皮のロングパンツを履いている。顔は少女の趣があるが、釣り目の両目は大人のそれだった。            、、 「準備は終わっている、私よ。このアドル・マディーの処刑のね。」 老人はアドルを見てより険しい顔つきになる。 「こいつには手を焼いた。多国籍企業ばかりを狙った企業テロの首謀組織『アトラス』のリーダー、アドル・マディー。儂が手塩にかけて築いた会社にも手を出しおって。」 「全くその通り。おまけに各国の公安や諜報組織とも仲が良いから困る。」 「た、たすけてくれぇええ!何でもすっからよぉ!金でもぉぉ、女でもぉぉおおお!!」 「正真正銘の下衆野郎だ。」 男は手を上げた。女が自動丸鋸を動かし、アドルに近付けた。エンジン音と共に回転する刃が唸り声を上げる。女は無造作にアドルの腰へ自動丸鋸を突き付けた。 「まずは上半身と下半身を離せ。背骨の辺りはじっくりと。」 「か、堪忍してくえぇえええ!!頼むよぉおおおおお!!」 アドルの悲鳴は丸鋸の起動音より勝っていた。次第に言葉として成立していない程に悲鳴が大きくなる。喚き散らされる大声に老人は額に青筋を立てていた。 「金は返すぅぅぅう!!!何でもするぅううう!頼むからぁあああ!見逃してくれぇええええ!頼むか」 「うるせぇえええええっ!!!!!」 男がアドルより遥かな大きな声を上げてリボルバーの拳銃を取り出すとアドルに向けて発砲した。五発。銃声が弾け、硝煙が漂う。 銃声の残響が鳴り止まない間にアドルは事切れていた。頭に一発、胸に二発、腹に二発。頭は一部が砕け散り、胸と腹には風穴が空いていた。 老人は驚いた顔で男を見やった。男は初めは呆然とした顔でいたが、すぐにコロッと表情を変えた。柔和で不気味な程に人当りに良い顔に。 「実に五月蠅かった。ゆっくり処刑なんて性に合わないだろう?私は。」
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