31.闇に沈む

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「・・集まったのはお前達か。」 新たに部屋に入ってきたのは長身の壮年だった。髪をオールバックに撫で付け、サングラスで目元を隠している。口周りには髭を生やしているが、肌艶は良く、若々しい。しかし醸し出している雰囲気は厳かで冷たい。独特な個性を発揮しているアルファ達とは違い、柔和さは一欠けらも無かった。ただ能面のような表情と彫像のような肉体を持っていた。 「ボス。お呼び付けとは珍しい。」 「この様の説明はまた後日だ、アルファ。大方察しはつくが。」 血の匂いが立ち込める部屋を見渡し、ボスは素っ気無く云い放った。 「ランバート・ナーギエの依頼か。」 「えぇ。然るべき形で処分を。頭が無いのは、まぁグランのお遊びで。」 「てめぇ口が軽いんだよ。」 「事実だろう?」 ばつが悪い顔をして顔を背けたグランをボスは一瞥し、すぐに話題を切り替えた。 「お前達には次の依頼に取り組んでもらう。」 「次ー・・?退屈が続くのだけは嫌。」 「四の五は無しだ、マルタ。此処にいる三人とバリー、アレハンドロでやってもらう。アルファ、陣頭指揮はお前が。」 「バリーとアレハンドロを含めた五人?穏やかじゃないですねぇ。」 アルファが顎をしゃくった。邪推の眼差しがボスに当たる。 「依頼人は火力をお望みだ。絶対的な火力。畏怖と驚怖と恐怖を与える為の。十分な報酬と十二分な信念を渡された以上、我々は応えねばならん。」 「我々に手を借りようとするだけでも中々ですよ。是非とも会ってみたいなぁ。」 アルファが目を輝かせた。陰りのある好奇心が滲んでいた。 「ヘァハハハハ!!」 唐突にグランが笑い出した。 「いいじゃねぇか。まだ面も見た事ねぇが気に入ったぜ!此処最近はどいつもこいつも手間と手数を惜しみやがる。なるたけ静かに、なるたけ穏やかに。馬鹿げているぜ。やりてぇならやりゃあいいんだ。チマチマ火をぶっ放した所でボヤにもなりゃしねぇ。」 「・・ま、大火事になるくらいの鉄火場なら、面白いかもね。」 マルタは起き上がっていた。相変わらず鬱々とした表情だったが、瞳の奥には嬉々と燃える炎が宿っていた。燻っていた火種が引火したように。
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