31.闇に沈む

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或る書斎。 フードを深々と被り、素顔を陰影の奥に仕舞っている男はパソコンを操作していた。鼻歌交じりに、鳴れた手付きで操作している。彼は通話ソフトを使って、ある人物と連絡を取っていた。 『・・私だ。』 「やぁ、久し振り。」 理事長は通話ソフトに応答した人物に朗らかな挨拶をした。画面の奥の人物は不快そうな唸り声を上げる。パソコンのカメラを通じて姿が映し出される。豊かな頬髯を生やした壮年。威厳と威風を備えた顔立ちに、厳格さを宿した両目を持っていた。 『・・あなたか。』 「つれないねぇ。たまには明るく対応してほしいな、オブライエン。」 『あなたと私の対話程デリケートなものは無い。』 クリストファー・リチャード・オブライエンは苦々しく云った。柔和な理事長に対し、あくまで頑迷な態度を取っている。 『そもそも非公式な対談の時でさえ顔を隠すあなたが云う事で?』 「一般的な意見だろうね。」 認めつつも、理事長にフードを外す気配はない。 『まぁ取るに足らない事だ。取り敢えず、御用件は?』 「例のスパイを引き渡す件だよ。フィエスタの時で構わないかね?」 『そう聴いている。尤もビギンズの部下の部下だよ、彼は。本来ならば私に話す必要は無いんだがね。』 「尻拭いも立派な仕事さ。魔法治安局局長としてはばつが悪いだろうが。」 画面の向こうでオブライエンは葉巻を手にした。シガーカッターで先端を切る。 『そちらが平穏無事ならやる必要も無いのだが。』 「そうはいかんよ。それに、協定は守らないとね。」 『表立てば共倒れだ。』 オブライエンは葉巻に火を点け、紫煙をくゆらせた。
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