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或る書斎。
フードを深々と被り、素顔を陰影の奥に仕舞っている男はパソコンを操作していた。鼻歌交じりに、鳴れた手付きで操作している。彼は通話ソフトを使って、ある人物と連絡を取っていた。
『・・私だ。』
「やぁ、久し振り。」
理事長は通話ソフトに応答した人物に朗らかな挨拶をした。画面の奥の人物は不快そうな唸り声を上げる。パソコンのカメラを通じて姿が映し出される。豊かな頬髯を生やした壮年。威厳と威風を備えた顔立ちに、厳格さを宿した両目を持っていた。
『・・あなたか。』
「つれないねぇ。たまには明るく対応してほしいな、オブライエン。」
『あなたと私の対話程デリケートなものは無い。』
クリストファー・リチャード・オブライエンは苦々しく云った。柔和な理事長に対し、あくまで頑迷な態度を取っている。
『そもそも非公式な対談の時でさえ顔を隠すあなたが云う事で?』
「一般的な意見だろうね。」
認めつつも、理事長にフードを外す気配はない。
『まぁ取るに足らない事だ。取り敢えず、御用件は?』
「例のスパイを引き渡す件だよ。フィエスタの時で構わないかね?」
『そう聴いている。尤もビギンズの部下の部下だよ、彼は。本来ならば私に話す必要は無いんだがね。』
「尻拭いも立派な仕事さ。魔法治安局局長としてはばつが悪いだろうが。」
画面の向こうでオブライエンは葉巻を手にした。シガーカッターで先端を切る。
『そちらが平穏無事ならやる必要も無いのだが。』
「そうはいかんよ。それに、協定は守らないとね。」
『表立てば共倒れだ。』
オブライエンは葉巻に火を点け、紫煙をくゆらせた。
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