31.闇に沈む

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『引き渡しの詳細は後日に。…ちなみに彼は五体満足なのか?』 「保証はしないね。」 オブライエンが表情を変えた。 『・・ビギンズを抑えてきた苦労は無駄だったか。』 「現実は常に私達の思惑とは別方向から来る。君も、私も。何をしようが何を尽くそうが、変わらなかっただろう。そういう巡り合わせなんだ。」 理事長が頬杖を着いた。器用な着き方だ。顔の輪郭も見せていない。 『あなたは何を賭けている?この先に起ころうとしている事に。』 「希望、或いは信念、或いは・・情愛。」 理事長の言葉は浮ついていた。独り言のように、頼り無く空気を伝播する。 『・・?』 「これ以上は、あまり語らせないでくれ。職責に関わる。」 理事長は苦笑いを挟み、手を伸ばしてフォトフレームを手にした。オブライエンからは見えない。 「ただ、ね。私は信じなければならないんだよ。理想を、願いを、想いを。例えこの世界が私と敵対しようとも。」 穏やかに語る理事長にオブライエンはこれ以上問わなかった。理事長の素性に迫りたい好奇心はある。その立場を踏まえて、知っておきたい事柄もある。この人物の素性はユニオンでも掴み切れていない所が多い。経歴、家族構成、詳しい個人データ。どれも欠けている。ただ夥しいばかりの実績と実力だけがユニオンのみならず世界に流布している。 だが、オブライエンはこれ以上詮索する気にはなれなかった。目の前にいるこの男が、ただの男に見えたからだ。 それに、オブライエン自身思う事があった。
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