4.ビフォア・スコール

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廃棄プラントから北の地点。 英黛は各々武器を携えた執行部員に囲まれている中で、廃棄プラントがある方向を睨んでいた。整った黒髪の上に長い白髪のウィッグを頭の後ろで結い上げている独特な髪型、切れ長の目には黒い瞳が強かに光る。 作戦が開始され、配置に着いた時から彼は言葉を発していない。緊張や恐怖などとは無縁だが、それとは別種の感情が黛に巣くっていた。 静かな、至極静かな闘志。 ゆらゆらと高ぶる闘志は身体中に浸透していく。闘志は自然と黛を臨戦態勢に仕上げる。ゴーサインが出れば黛は誰より先に踏み込む気でいた。一番槍は誰よりも速く取る。 黛は腰に下げた鍔打ち七兵衛を強く握り締めた。柄と掌が擦れて軋む。東雲色の柄は前より色が褪せ、所々赤黒いシミがな付いている。血だろう。黛の活力が刻み込まれたようだ。 「兄御!」 声をかけられ、黛は闘志を静めた。あからさまに闘志を漲らせる黛に気を使っているのか、または恐れているのか、部下の執行部員達は話し掛けない。そんな中で話し掛けてくる人物は限られている。 「まだ出ないんですかね?!俺達!」 「逸るな、右京。」 一年下の等々力右京。あどけなさが残る顔には溌剌さが漲る。髪型は黛の形を真似て結い上げている。悪びれてはいるが年にしては不相応な腕白な性格だ。ただ武器は黛の得物とは違い、身の丈以上はある野太刀『延金』を使う。 「つれねぇなぁ兄御!俺はやる気満々でさぁー!」 諫められた右京は頬を膨らませる。 「教えた筈だ、右京。慢心は身を滅ぼす。」
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