4.ビフォア・スコール

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つくづく、単純な男だ。 他愛ないやり取り一つ一つに感情を起伏させる。すぐに落胆したり、高揚したり。駆け引きや思惑に向いていない典型例。黛は嫌悪するまでは行かずとも、直すべき欠陥の一つだと認識していた。 しかし人の性根は軽く叩いたくらいでは変わらない。ましてや十数年そんな性格で生きてきた人間だ。 かといって右京にこのまま萎まれても困る。黛は溜め息をついてフォローを入れた。 「くだらん事で心を乱すな右京。俺は障り無い。」 「ホントですかい?兄御。」 心底救われた顔をする右京から目を背け、黛は鍔打ち七兵衛を軽く出し入れして鳴らした。黛の変動を察して執行部員達が集結し、整列し始めた。 自然と黛は注目される立ち位置になる。 「全隊へ告ぐ。」 黛は呼び掛ける。 「鼠は籠の中だ。速やかに捕捉し、叩き潰せ。決して油断するな。だが自覚しろ。我々は勝者だと、絶対者だと。故に奴らは負ける。故に奴らは叩かれる。勝利のみを手にしろ!敗北は永久に背負う恥辱だ!恥辱を受けるなら死ね!勝利に行け、敗北に死ね!」 黛の鼓舞に執行部員達は一斉に吠える。気勢が声に乗って木霊する。木々が空が震動する。 木霊に囲まれた黛の記憶が揺り戻る。 身の丈に合わない日本刀。 涙。 血。 『お父様、お父様。どうして斬らねばならないのですか?』 「…糞が。」 黛は歯軋りした。 「脳髄の奥から不快だぞ。」
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