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「…大馬鹿だ。」
リントは呻くように、返した。ヲリエは微笑んで立ち上がる。
「そーだよねー。あたしもそう思う。」
「おまけにナンセンスだ。」
リントの呻きは続く。力無く、唱えられていく。
「殴って気持ちを伝えるなんて、野蛮だぜ。」
「好きに云って。
あたしはそれしか知らないし、それが一番だって思っている。」
リントはうなだれた。
降参だ。
彼女の意志は固い。説得は無理だ。
いや、初めから分かっていた。彼女の説得など無理だ。
端から見たら彼女は独善的だ。一つの組織からはみ出てがむしゃらに突っ込む。誉められた行為じゃない。
だが、この行為は間違えじゃない。
切り札だ。
歯止めが利かない人間は殴ってまで止めなくてはならない。善悪、正邪の問題のみに止まらず、この切り札は最大級の力を発揮する。理を超越して人に意志を伝える究極的な手段だ。
無碍には出来ない。この手段がどれだけ有効だと云う事も理解している。何より、ヲリエはこの手段に全てを賭けている。その全てを、彼女が賭けている想いをリントは知っている。
知ってしまっている。
リントにヲリエの想いを潰す事は出来ない。
だが厭わない気持ちはあった。罪悪感を負っても、厭わない覚悟はあった。
リントにも、譲れないモノが確かに宿っている。
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