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「チーフ…?」
編集室のドアを開けて、シェリルが顔を覗かせた。ボブカットの髪を軽く撫でて、怪訝な顔をしている。後ろでラウルの顔も見えた。
「やぁ、シェリル、ラウル!待ってたよ。」
ヲリエはヒラリとデスクから飛び降りて二人の元へ向かった。リントはヲリエとすれ違った後に、ゆっくり椅子に腰掛けた。
今し方只ならない会話が繰り広げていたのだろう。リントの憂いを帯びた背中が物語る。
だがシェリルとラウルは顔を見合わせただけで、何も問わなかった。迂闊に触れて、彼の憂いを揺らしたくなかった。
「アインを連れてきました。今大丈夫ですか?」
「良いよ。入れて。」
シェリルが手招きするとラウルに連れ立たれ、一人の少女が入ってきた。
小柄な少女だ。
藍色の髪、空色の瞳。確かに外見の雰囲気はシオに似通っている。女だが、小柄な体躯や澄んだ瞳もシオに近しい。
ただ違う点と云えば、シオより勝ち気そうな所だ。知らない人間のいる知らない場所だと分かっているが故に身構えている。虚勢のような頼りない気概でもすぐに身構えると云う事はそれだけ負けん気が強い証だ。
「改めて、お名前は?」
ヲリエは柔らかく尋ねた。少しでも緊張を和らげてやろうと云う配慮だ。
だがアインはその配慮に気付いていないのだろう。ヲリエの一声でアインは更に虚勢を強めた。
「アイン・アイリス…。」
「そう、よろしく。」
ヲリエは麗らかに微笑んだ。
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