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ヲリエのその笑みで、初めてアインは軟化したように見えた。
やはり、拙い。
彼女は駆け引きや探り合いに向いていない。感情を押し殺せていないし、演技も出来ていない。身の丈に合わない振る舞いをして意地を張っているだけだ。
彼女が意地を張っている理由にヲリエは興味を覚えた。何かに強迫されていないと、人は分を超えられない。
使命か、慢心か、義理か。
本来の器を霞ませる程大きな想念が彼女の胸の内に宿っている。
ヲリエの興味は更に募った。
と同時に。
その想念の裏にある予感を、確かにヲリエは察知していた。
恐らくリントの危惧は正解だ。アインは得体の知れない騒乱の火種を孕んでいる。どう対処すべきか、どう円滑に巻き込まれていくべきか。
ヲリエはアインを席に案内しながら、静かに思考を巡らす。
アインはヲリエの傍らの席に着き、姿勢を正した。やたら背筋を伸ばし、小さな胸をツンと張る。
「さぁ、噂の転校生を根掘り葉掘り掘り下げたい所だけど…」
ヲリエは席につき、頬杖を着いた。探る眼差しがアインに向けられる。
「寄り道しないであなたに質問する事にした。
いい?」
「はい。」
リントに隣に立ったシェリルとラウルが眉を顰めた。
「あなたは何の為に此処に来たの?」
シェリルは胸が高鳴るのを感じた。ラウルも固唾を呑む。
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