記憶フェイカー

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 その後の試合は、俺自身あまり納得のできる内容ではなかった。後輩に期待されていたバックパスも、出しはしたもののキレの良いものとは言えない。結局、一番勝率の高かったのは雄介のチーム。しかし、ピンチになるとフォワードである雄介にボールが集まるという、この試合の目的にそぐわない形での勝利だったみたいだ。後でチームメイトは雄介から説教を受けていた。ちなみに、俺達は二位だった。モチベーションの上がっていた後輩たちが凄まじかったとだけ言っておこう。  今は、部活終わりに雄介と着替えながら今日の反省を含めて二人で話をしている。部内戦の事とその後の練習の内容、それとこれからの練習について粗方話が付いたところで俺は気になっていた事について口を開いた。もちろん話題は先週の月曜日の事―― 「ああ。俺も覚えてるぜ。あれはかなり気持ちよかったからな。あの瞬間だけで言うなら、補欠で出た大会よりも記憶に残ってるくらいだ」  そこまで言われると、俺も自信が揺らぐ。実はネットで過去の天気の記録を見ても晴れだったのだ。 「そうだ、スコア表! 濡れた体育館で落としてびしょびしょにした奴! あれを見れば確かめられる!」  そう言って、俺はロッカーの上に手を伸ばす。 「あれ? 無いな」  もしかしたら誰かが保管棚に戻したのかもしれない。そう思って保管棚を開けて濡れてしまったはずのスコア表を手に取った。  そう……はず……だった―― 「ははっ。濡れてなんかいねーじゃねえか。らしくないな薫、きっと疲れてるんだよ。今日は帰ってゆっくりしろって」  それでも、俺は諦めきれずに他の部員にも話を聞いた。しかし、それはどれもが徒労に終わった。諦めて……帰るしかなかった――。俺の記憶がおかしい……? 今まで一度も俺の記憶が間違っていた事は無かった。それで信頼を得ていた場面も多いし、何より俺の唯一の自信だ。俺にはこれ以外何も取り得が無いって言っても良い。だから……それだからこそこれだけ証拠を見せつけられるとショックが抑えられない。
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