記憶フェイカー

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 そして春菜の家は俺の家の隣で、昔孤児院を営んでいた。ちなみに今は親父さんの仕事の関係で一年ちょっと前、俺が高校に上がる頃に辞めてしまっている。その孤児院で俺は長らく世話になっていたのだ。  つまりは、春菜の姉である若菜さん、妹の玲菜、そしてこの隣を歩いている春菜の三人とは兄弟のように育った。昔は若菜さんを姉ちゃんと呼んでた頃もあったが、中学生になったときに呼び方を変えた。  その孤児院には七歳の頃からお世話になっていて、一人暮らしを始めて一年以上が経った今でも、こうやって夕飯の誘いなどで伺うことがあるのだ。七歳の頃からお世話になっているとは言ったが、実際交流の長さで言えば物心をついた時からの付き合いになる。春菜も今こうして二人で下校している訳だが、違和感なく会話がずっと続く。どうでもいい話が延々と続く。まるで家族と話している様な感じ。そう思える程話が弾むし落ち着く。  ……こうやって話をしていると、やっぱり部活での話をしたくなってくる。そう。あの記憶違いの話。皆にとってはどうでも良い話なのかもしれないけど。でも、どのみちどうでも良い会話をするんだ。構わないだろう。 「ところでさあ、春菜? 聞きたいことがあるんだけどいいかな?」 「好きな人ならいないわよ。何? あんたも誰かに頼まれたわけ? 紹介とかなら会うつもり無いって伝えといて」 「は?」  やべっ! 間の抜けた声がつい口をついて出てしまった。 「何? 違ったの? いや、勘違いした言い訳をするんじゃないけど……。さっき部活の友達に同じ事言われてね。全く、あたしなんかの何が良いのやら……」 「確かに、お前に惚れる意味は分かんねぇよ。もしかして俺の知らないところで可愛い子ぶってんのか? 似合わないけど」 「一言余計よ! でも、ホントそれ! 可愛い子ぶってるはずなんか無いし。それに、あたしより可愛い子も良い子も沢山いるじゃない。総合的に見たら、あたしなんか底辺よ?」
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