記憶フェイカー

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「ところで、あんたが聞きたかった事っていったい何だったのよ? 話がずれちゃったじゃない」 「奇遇だな、今俺の首の骨もずれちゃった所だ。聞きたかった事も脳震盪で忘れてしまったかもしれない」 「あら? じゃあ後ろから同じように蹴れば万事解決ね。ほら、遠慮してないで回れ右!」 「標的は後頭部だと!? 今度は記憶だけじゃなく、命まで飛ばすつもりか?」 「そうね。命って膝蹴りでどのくらい飛ぶのかしら? 百メートルくらい飛んだらオリンピックでも目指そうかしら? そうなったら長距離は引退ね」 「ファールをしても三回まで飛ばせますってか? 平和を謳うスポーツの祭典でそんな事させねえよ!」 「もっと分かりやすい突っ込みしてよ。ただでさえワケわからないノリで喋ってるんだから気を使って」 「お前にだけは言われたくない!!」 「で? 本題は?」  全く……話の腰を折って、首の骨をずらして、最後にはこれかよ。真面目な話をしようとしてたのにどうしてこうなった。しかも、会話の主導権を完全に奪われている。 「ここで冗談パート終了だ。ところで春菜は、確かに自分が覚えてた事が事実と違っていたなんて事あるか?」 「当たり前じゃない、人間なんだから。記憶違いくらいあるわよ。聞きたかった事ってそんな事?」 「いや、それだけじゃない。聞きたかった事は先週の月曜日が雨だったかどうかだ」  俺が真剣に聞いているからだろう。春菜も真面目な顔をして考えてくれている。思い出すだけのことでそんなに時間をかけなくても良いと思うが、そこは触れずに待つ。しかし、春菜は口を開くと期待以上の物を話してくれた。 「つまり、薫は先週雨が降った記憶があって、思い違うはずもないような記憶がある。でも、周りの皆は晴れだった記憶がある。そんなところかしら?」  俺はそこまで推測してくれたことに心底驚いた。いや、春菜にとってそのくらいの推測は当たり前なのかもしれない。なにせ、俺と違って前文を読み取る能力があるんだからな。 「そうなんだ。俺は雨が降った記憶があるんだよ。でも、周りの皆は晴れだった記憶が残ってる。春菜もやっぱり晴れだったって言うんだよな?」  その質問に対して、春菜はしばらくしてから答えた。
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