記憶フェイカー

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 まあそんなことはさて置いて、こいつが泣きついてきたのには一応理由がある。先程のホームルームで担任の山本が突然一時間目にテストをするなんて言い出したからだ。授業中に良く寝ている雄介と言えど、抜き打ちで無ければどうにか再試を逃れる点数は取れる。なんていったって再試となると部活の時間が削られてしまうからな。部活の為には頑張る奴だ。 「あと十分しかねぇんだよ。山でいいから教えてくれよぉ」  十分あれば十分だなどと言ってやりたいところだが、雄介が再試になって部活を休まれると困るのは俺だ。渋々と言った体でテスト範囲のページを開いて指を指すと優しく雄介に教える。 「ここ。絶対に出るから。先生って癖のせいで、テストに出す箇所は分かるんだよね」 「うおっ! マジかよ! ありがとな薫! 先生の癖なんて、俺には全く分かんねぇけどよ」  事実、ウチの担任である山本先生は分かりやすい。なぜなら、テストに出す文を読むときは語尾に「うん」って言う癖があるからだ。ただそんなことをいちいち覚えているのは俺だけだろう。ちなみに、山本先生の担当教科は歴史だ。 「薫はいいよなぁ。勉強しなくても点数とれるんだから。てかノートすらとってねぇじゃん」 「まあ……そういう能力みたいなもんだからな。教科書見ながら授業聞いてたら覚える。てか、そんなこと言ってる暇があるなら俺が言った所を覚えたほうが良いぞ」  全く反論する余地も余裕もない雄介は、机に居直って教科書にかじりついた。一方、俺はと言うと只々窓から空を見上げているだけだ。見上げた空は雲一つなく晴れやかそのもの。突然の知らせに嵐のような喧騒を立てている教室とは大違いの静かさだ。あああの澄んだ空になりたい――などと憂鬱なことを考えてしまっても仕方がないというものだろう。俺がそんなくだらないことを考えながら空を眺めていると、案の定と言うか、いつも通りと言うか。雄介以外に、もう一人俺に絡んでくる野郎がいた。
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