記憶フェイカー

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「何? あんた一時間目が始まる前から勉強なんてするの? おかしな事言うのね」  そうだった。春菜はホームルームにいなかったからテストがあることを知らないんだ。教えるべきか否か――。このまま黙っていればいくらか点数を落としてしまうだろう。朝から稼いだウザポイントを消費してここはいたずらに黙っているのも有りかもしれない。しかし、不思議そうに首を傾げる春菜を見ていると事実を教えて絶望する顔を見るのも良いんじゃないかと思った。後でリアクションを見るか今リアクションを見るか。その二つを天秤にかけた結果、俺は後者を選ぶことにした。 「実は先生がホームルームの時間に突然テストをするって言ったんだよ」  俺の言葉を聞いた春菜は、この世の終わりを宣告されたような顔をしていた。アニメや漫画なら、がーん! って効果音が鳴っていた事だろう。 「がーん!」  思ったそばから、がーんって言いやがった。ノーリアクションな俺を見て、今度は、ががーん! って言いやがった。めんどくさい奴だ。でも、そういうノリ嫌いじゃない。 「ホームルームでテストなんて……。もう終わったってこと? 先生もホームルーム中にテストするなんて酷いじゃない」 「ん? 何か勘違いしてないか? テストがあるのは一時間目で、ホームルームの時にはテストがあるって言っただけだぞ」  流石の俺も、誤解を招くわけにはいかなかったので、早々に訂正させていただいた。 「そんなの分かってるわよ。冗談に決まってるじゃない。真面目に受け答えされたら、逆に反応に困るわ。どうしてくれるのよ。あたしは薫と違って、前文から内容を把握する能力があるんだから」  そう言いながら人差し指を立て、チッチッチッと言った。ただ、チッチッチッのリズムが早すぎて、まるで小鳥を呼んでいるかのようだった。まあ、ここまでである程度分かって頂けたと思うが、春菜はノリがよくて、俺をからかう元気娘だ。元気印という言葉がよく似合う。品質問題で訴えられる事もない本物の元気印だ。
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