153人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言えば、疲れているのか興味がないのかわからないが、他の女子のように、彼女は盛んに話しかけて来ない。
康祐としてはそれで構わないのだが、普通同じ部活で、しかも同じクラスともなれば、どちらからともなく話をするものではないか?
(まあ、どうでもいいけど)
女子に気を使って会話するなどまっぴらな彼は、再び目を閉じ、今度は短い眠りについた。
翌日の朝練で、校門から部室までの抜け道を歩いていると、偶然村瀬主将に出くわした。
「おう!
今日もよろしくな」
朝から爽やかに挨拶する彼に、康祐は思い切って、胸の中でくすぶっているものを吐き出してみた。
「昨日の自分の守備、どうでしたか?」
村瀬は、一瞬何のことかわからない様子だったが、すぐにシートノックの一件を思い出したようで、表情を改める。
「なかなか、良かったぞ。
中学の全国大会でベスト4入りしただけのことはある」
彼の言い回しに手ごたえを感じた康祐は、話を続ける。
「それなら、自分も、練習に参加させてください」
そんな康祐に、驚いた表情を見せた村瀬だが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべ、康祐の肩に手を置いた。
「そう焦るな、志村。
野球って言うのは、個人プレイじゃないんだ。
試合だって、9人で戦えるわけじゃない。
今のお前の立場でも、学べることは十分にある」
康祐は納得がいかなかった。
「でも、村瀬さんは、1年生でもレギュラーを狙えると言っていました」
「それは言った。
じゃあ、はっきり言わせてもらうが、今のお前ではレギュラー入りはできない。
大会前の大事な時期に、レギュラー入りできない者を練習に参加させるわけにはいかない」
今度は厳しい表情で、村瀬はそう言い放つ。
「とにかく、焦るな。志村。
お前らの時代は必ず来る。
今は、先輩からできるだけ多くのものを盗め」
主将らしく、力強い口調でそう言った村瀬は、もう一度康祐の肩を、今度はしっかりと握り締め、先に立って部室に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!