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県大会は、春季大会と同じ球場で行われるため、前回と同じ宿舎を利用することになった。
遠征の度に、顔をしかめる母親だが、康祐は敢えて何も言わず、荷物の準備をする。
「3年生が引退したら、必ず病院へ行くのよ」
そんな康祐を見つめながら、心配そうに呟く母親に、康祐は小さく頷いた。
県大会の盛り上がりは、康祐の予想をはるかに超えるものであった。
憧れてやまなかった高校野球の舞台に、自分が今身を置いているという興奮に、康祐の胸が高鳴る。
――いつか、自分も、必ずこの舞台に立ちたい
康祐は強くそう願うのだった。
最強と言われた今年のチームではあったが、高校野球は何が起きるかわからない。
南ヶ浦は、甲子園確実と言われながら、県大会の初戦で惜しくも涙を飲む結果となった。
最後の打者が打ち取られた瞬間、3年生の夏が終わりを告げた。
控室でうな垂れる彼らを見た時、康祐は不覚にも自分の胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じていた。
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