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「……一つだけいいか?」
今まで沈黙を守ってきた重みのある声がケイトにむけられる。
「当日のことはいい。その後のことも、まぁ貴様ならそれなりに考えてはいるのだろう。だが、どうにも解せんことがある」
「なんだ?」
ドルジの目つきが、明らかに睨むような色に変わる。
大柄で力で何もかも捩じ伏せるタイプのため見落とされがちだが、彼の洞察力は並ではない。
加えて、いつでも誰かを客観的に見ることのできる冷静さと度量をも持ち合わせている。
今日の集まりにおいてケイトが一番懸念していたのがこのドルジだったのだが、やはり予想通り彼は一歩自分の中に踏み込んできた。
「貴様は、誰の味方だ?」
ケイトは思わず舌を巻く。
やはりこの男にだけは気づかれたようだ。
「ちょ、ドルジくん! なにその言い方!」
「黙っていろカレン。貴様がどれほどケイトを信じようが構わんが、俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。
子供たちに危害が加わればことだからな」
「そんなこと……!」
「どうなんだ、ケイト」
カレンの言うことに耳を貸さずにケイトだけを見るドルジ。
どれだけカレンたちが何かを言おうとも、まったく意に介す気配がない。
ごまかしなど見逃さんと言わんばかりのその眼光は、本当に何も見逃すことはないのだろう。
「そうだな……。少なくとも、カレンの敵になるつもりはない」
だから、〝今〟の自分の胸中を語った。
嘘で塗り固められた言葉でない以上、ドルジも上手くは見通せない。
なにせ、事実なのだから。
たとえその彼女を裏切るようなことをしようとも、事実には変わりないのだから。
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