夏合宿《中盤戦》

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上の者に努力して追いつき、追い越す。 ミーシャにとってそれは始めての経験であり、だからこそ甘美であった。 故にこれだけは譲れない。 一度追い抜いたものにまた追い抜かれるなど、ミーシャはどうしても嫌だった。 もしその相手がレイ以外の他の誰かだったのならば、ミーシャは決してその言葉を口にしなかっただろう。 しかし、相手はそのレイ。入学して友達になって、憧れすら抱いていた人物。 親友になれるかもと期待を抱かずにはいられない人物。 だからこそミーシャは、レイと友達であり、そしてライバルになりたいと思っていた。 認め、認められる間柄になりたいと思っていた。 レイは口下手だ。ライバルだなんてそんなこと、認めるだなんてそんなこと、彼女が簡単に口にするはずはない。 ではどうすればよいか。 答えは一つ。レイに「参った」と言わせてやればいいのだ。 それで名実ともに親友、ライバルになれるとミーシャは核心していた。 それと同時、その一言を彼女から引き出すのは容易ではないこともミーシャは知っている。 現に最初こそ押していた自分の剣舞が、徐々に押し切れなくなってきている。 剣銃だけでなく、時たま銃声を鳴り響かせて動くレイは、もはや自分の彼女へのアイデンティティーを奪おうと問答無用で奔走していた。 (やっぱりレイちゃんは凄いな) 悔しいと思う。負けるのは嫌だなと願う。 しかしその思いを蹴り飛ばして突っ走ってくるレイの姿は、とても心打たれる誇らしいものだった。 自分には決してない力強さが、そこには燦然と輝き続けているのだから。
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