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「お! 見ろよ、粂の新刊出てるぜ!」
高校生くらいの少年が、書店で一冊の本を手に取り、友人にそう声をかけているのが耳に入った。
僕の頬はつい緩んでしまう。
僕は粂 万由良(くめ まゆら)の名前でホラー小説を書いている。
初めて本が出版されてから数年。書店にいた少年達のような高校生を中心にファンを獲得し、今では人気作家という座を得るに至っていた。
僕自身、気恥ずかしい気持ちはある。しかし、やはり人気が出るにつれて、それに見合った矜持を持つようにもなっていた。
平積みにされた僕の新刊を、沢山の人が手に取り、更にはレジに向かうのを見ると、誇らしい気分だった。
だが最近、僕には気になるものがある。それは……。
「あ、こっち来てみな! 六目夜 流禍(むめや るか)があるぜ」
「マジか? どこ行っても売り切れだったんだよなぁ」
男子学生はそう言うと、僕の新刊を元の場所に置き、棚に一冊だけ残っていたその本を手に、レジに向かった。
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