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僕は仕事場にしている和室で、六目夜の本をじっと見ていた。
数日前からこの本は、僕が執筆時に使っている文机の上に置かれている。
この作者の本はこれ一冊だが、その表現、描写、全てに於いて他を遥かに凌駕していた。
僕は最初の数行でこの著者の世界に引き込まれた。そして、嫉妬した。
読み終えた後は、暫くその余韻で頭の芯が震えて、何も考えられない程だった。
六目夜が話題に上がるようになったのは、一年程前の事だ。
僕はもともと本を読むのが好きで、書いていない時は何かを読んでいる。完全な活字中毒なのだ。
話題の本からペーパーブックまで、何でもありだった。
そんな僕がこの本を読まない筈もなく、様々なコネを駆使して、入手困難と言われていたこの本を手に入れたのだ。
しかし、僕はそれを後悔している。
この作者を超える事は出来ない。
そんな、認めたくない現実に、僕は落胆していた。
しかし謎も多かった。
作者は不明で、その本がいつ発売されていたのかも誰も知らない。
気づけば書店の片隅に置かれ、それが次第に話題になっていったのだった。
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