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「私がそう簡単に頭を下げるとでも思っていたの? 生憎、そういう気持ちは持ち合わせてないの。残念だわ」
「勿論、そんなことはわかってる。けど今日は塾のテスト。遅れる訳にはいかない」
「…どうしても頭を下げさせたいみたいね」
「違えーよ」
そう言うと、春樹は梓に近寄り、空いている梓の左手に無理矢理傘を持たせた。
そして春樹はもう1つの傘をさし、冬なのに珍しく雨の降る灰色の世界へと歩いて行った
そして数歩歩いたところで春樹は振り返り、
「それ、貸し1つな」
と、呆然と立ち尽くす梓に言い残し、足早に去っていった。
いつも嫌味ばかりを言い、口が悪く、乱暴な春樹とは打って変わった一面を見た梓は、少しその場で呆けていた。
だが、しばらくするといつもの落ち着いた梓に戻り、春樹に渡された傘をさし、学校を後にした。
「貸し1つって…私は何もしないわ」
そう言いながらも、口元には、僅かな笑みが溢れていた。
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