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桃太郎を拾って早5年。
俺は人並みに『お父さん』になれてきていると思う。一生なれないと思っていた存在だから、凄く幸せだ。
「とぉーさまーぁー」
手を思いっきり振りながら、おぼつかない足取りで俺のところに駆けてくる。
フワリ
桃の花の香りがした。
この香りが胸を痛くする。
それは…
『桃の香りし者、鬼へと喰われその一生を終える。
それを守るは三つの光。
一つは翼有りし者
二つは闇切り裂く爪有りし者
三つは光へと導く知恵有りし者
すべては桃香る時にーー』
という言い伝えがあるからだ。
言い伝えは真であり、変えられぬ運命。
ーーどうして。
そう思っては拳を握る。
運命は悲しい程に残酷だ。
残酷だからこそ、人は愛する。
「どぉしたの??」
「ん?何でもないよ桃太郎。そういえば、今日はお母さんがご馳走だ!と言ってたぞ~っ」
「わぁーーい♪おごちちょう」
触れる小さな手。
この子が『桃の香りし者』なんて
愛しい。
血は繋がってなどいないが、俺の中にはもう桃太郎は自分の子供だ。だから、愛しくて堪らない。
拳を握る力が増す。
守れないと言うのはこんなにも悔しくて、腹がたつ。
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