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他の料理も口にするが、ことごとく美味い。
それに負けじと、錬灯も中々の飲みっぷりを見せ、卓の上には続々と空の徳利が並んでいく。
その雰囲気と同調するように、酒場の盛り上がりも激しくなり、いつしか錬灯や一夜の周囲にも人が集まっていた。
「いやぁ、錬灯の知り合いにこんな酒豪がいるたぁ思わなかったぜ。見大層な剣を持ってるくらいだ、腕前も相当なもんだろう?」
「相当なんてもんじゃないぞ、数の不利なんて一夜には関係ないんだからな。立ち塞がった奴は片っ端から薙ぎ倒していく暴風みたいなもんだ」
と、錬灯が饒舌に、まるでヒーローに憧れる子供の如き表情で語らう。
それを感嘆と聞く周囲の男達に対し、妙に照れ臭そうにしながら、うっすらと笑みを浮かべて杯を傾けて酒を飲む一夜。
誉めらたのがまんざらでもないのか、それとも酔いか、顔は少々紅潮気味である。
……と、そんな中。
ーーガシャーン!!
木が折れ、ガラスが割れる様な騒音が、騒がしい酒場に轟いた。
何事かと目を見張る一夜に対し、他の者達は「またあの方か」と小さく呟き、見世物を見物するかのように音の方へ向かっていった。
「……何事だい?」
「ここは結構有名な酒場でね、将軍様や、たまに曹操様もいらっしゃるんだよ」
「へぇ、将軍様ねぇ……」
(飾りもんの名前じゃなきゃいいんだけどな)
皮肉を浮かべつつ、騒ぎの中心点を見据える。
人に遮られて姿は見えないが、確かにそれなりの気配は察知出来る。
しかし隠し方が下手なのか、それともまだまだ未熟なのか、完成された「武人の気配」というには粗末であった。
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