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1
世の中には実に不思議な出来事が溢れている。僕の隣で静かな寝息を立てて眠る裸の女の存在も、僕に訪れた不思議な出来事だ。
僕は酷く痛む頭を女の方へ向け、少しの間ただぼんやりとその姿を眺める。女の年齢はおそらく20歳を少し過ぎたくらいだった。
綺麗な髪だ、と僕は思う。女の髪は黒く、腰までの長さがあった。肌は白くも黒くもなく、その中間といったところだ。胸はあまり大きい方ではないが、とても形が良く、小さな丘のようだ。そこには風車があり、やわらかな風が吹いている。
「起きてたの?」
女がまだ眠たそうな目で僕を見ながら言った。
「うん」
僕はマールボロの箱を手に取って、煙草に火をつけて吸った。外は暗く、車の音が微かに聞こえるくらいだ。どうやら今は夜中らしい。
「煙草、くれる?」
僕は女にも煙草をやり、マッチで火をつける。マッチの裏を見ると、ピンク色の文字でホテルの名前が記されていた。
女は煙草を受け取ると、それを深く、うまそうに吸った。首から下げた銀のネックレスが光る。
「何を考えていたの?」
女は煙草を吸いながら僕にそう尋ねる。
「別に何も」と僕は言った。
「嘘。あなた、何か考え事をしてるみたいにどこか遠くを見てたわ」
確かにどこか遠くを見ていたかもしれない。その場所はきっと何万光年も離れた場所なのかもしれない。
「丘のこと」
「え?」
「丘のことを考えてた」と僕は言った。
「変な人ね。どんな丘なの?」
「そこはいつも夕焼けに照らされているんだ。暖かく、また涼しくもある。風車がひとつ建っていて、風が吹いている。生き物はいない。代わりに綺麗な花が咲いているんだ。黄色い花だ。他にも――」
「ちょっと待って」と言って、女は僕の言葉を遮る。
「いったい何を言ってるの?」
「分からない。君の胸を眺めていて、ふと頭の中でイメージが沸いたんだ」
何を考えていたのかは、僕自身にも分からない。
「私の胸?」女は可笑しそうに笑う。
「ねえ、私の事を愛してる?」
「愛してるよ」
僕は嘘をつく。酒を飲み過ぎた僕の頭はまだくらくらとしていて、女の名前さえ思い出せない。
「抱いて」
僕は女の唇にキスをして、体を抱き寄せる。裸の僕たちの体はとても冷えていて、お互いの体に温もりを求め合う。この部屋で生きている音は、女の小さな喘ぎ声だけだ。
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