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大隊長の横顔がぐにゃりと歪んでいるのが見えた。耳に指を押し当て、先頭を走りながら何事か叫んでいる。きっと彼ももはや自分が何に向かっているのか分からなくなっているのだろう。どう考えても勝ち目の無い進軍を続けているのがその証拠だ。
とは言え、大隊傘下の中隊、小隊の長がほぼ全員戦死している中で、大隊長はたまたま運良く死神の鎌から逃げ仰せているに過ぎない。
良く訓練された烏合の衆になりつつあるこの大隊を前に前にと引っ張っているだけでも十分優秀だ。
この大隊が有する武装で敵方の兵器に唯一有効な無反動砲は重量がある。それらを持つのは部隊内の三割程度で、今では全体の一割も残っていなかった。
彼らがいなくなれば俺たちが敵陣に無謀な前進を繰り返す意味は無くなる。俺や他の者が持つ小銃は、敵の兵士には恐ろしい精度で襲いかかったが、敵の兵器にはお世辞にも効くとは言えなかった。
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