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副会長の紅茶で胸もお腹もいっぱいになった私達は、温室から出て裏庭に回った。
「んー?この辺だと思うんだけど、おかしいねー?蒼」
「んー?もしかしたらお昼寝中じゃない?藍」
誰もいない中庭だけれど、学校内にいる限り“ボクら”の演技は続く。
幼く、無邪気に、愉快犯を装って。
不思議だね、なんて。小さいことすら楽しむようにけらけらと笑いながら裏庭を探索する。
「「あーっ!見つけたー!」」
「……っ、?」
私と蒼が、チラッと見えた背中に向かって大声を出すと、その影の主は大きな体をビクつかせてこちらを振り向いた。
どうやら私らの声が大きすぎて怯えさせてしまったらしい。
会長に勝るとも劣らない高身長に、鍛えられたガタイ。凛々しい顔に浮かぶ無表情はまさに武士という感じだ。
しかし残念ながら、性格は引っ込み思案でシャイ。意思は強いんだけど、それを押し通そうとする強引さが欠片もない。
強か、という言葉がよく似合う彼は書記の七瀬 昶(アキラ)。私らにとってのマスコットキャラ。唯一の癒しだ。
「んー、今日もいい感じにマイナスイオンがでてるねー」
「ちょー癒されるよー」
「……と、なぃ…」
ぎゅうぎゅうって、アキラの両側に張り付いて腕を回せば、謙虚な彼はそんなことないって否定しながら、それでも優しく頭を撫でる。
その手が優しくて、ついでにいうと、触ることに怯えているのか少しだけ震えてて。
そんな様子がまさに小動物って感じで。いや本当にイオン放ってますよ、なんて。無言で抱きしめる力を強くする。
瞬間、ビクって体を震わせたアキラ。
下から覗き込めば、不安げな瞳と交差する。
その姿が可愛くて。哀しくて。
安心させるように、私は笑う。
(大丈夫、大丈夫だよ。君が私に怯えても。君が私を怖がっても。私は離れていったりはしないよ)
「…藍」
「ふふっ」
確かめるように私の名を呼んだ彼に再度微笑めば、アキラもつられたように笑った。
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