少年クラーケン

　地を揺るがすような咆哮と共に、ゴワゴワとした被毛を持つ獣頭が暗雲の隙間から顔を出す。

　長い鼻面を持つその頭部は、馬のものだ。

　続いて形を現したのは、隆々たる筋肉が縄となって巻き付いた屈強な二の腕。最後にはニョローンとばかりに尻から伸びた蛇の尻尾が飛び出して来る。

　馬頭人身を持つ醜悪な生き物が、天を覆う暗雲からガイーンと言う稲妻と共に舞い降りて来た。

　その頑健そうな肩には、年の頃十二～十三才位の少女が乗っている。

　茶褐色の艶やかな前髪が、額の上でぱっつりと水平に切り揃えられたショートボブの髪を持つ幼女だ。

　俺はその前髪の下で輝く大きな鳶色の瞳を見た瞬間。

　ズキューンと胸を撃ち抜かれた。