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「それは、彼女がそれを望んだからだ」
「おばあちゃんが?」
父は頷くと、懐から手帳を取り出した。
「芯のしっかりした強い人だったよ。お前に真実を報せるその時まで、絶対に隙を見せない様にって……遺言だった」
手帳の間に挟まれていた手紙を僕に差し出した。
大正終わり頃の生まれの筈なのに、明治の時代の人の様な印象の祖母だった。
いつも髪を結い上げて、地味な着物を着ていた。
白い割烹着と、頭に手拭いを被って掃除をしている姿を思い出す。
どちらかと言えば、貧しい家の出だった祖母だが、住み込みで働いていた所の商家の旦那様が厳しい人で、散々叱られたと聞いた事がある。
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