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一向に攻撃の手を休める様子のないナツハにゼルがマジギレする。
「なに?試合は始まっているのよ?卑怯とか言われるのは心外だわ」
「…卑怯以前に、初っ端に、仮にも幼馴染の顔面を木刀で振り抜くって、どこの鬼畜だよ」
「あら、ごめんなさい。ゴミの知り合いなんて思い当たらないのですけれど」
「…てめぇ、絶対負かしてやる」
ゼルがナツハに向けて走り出す。数メートルに満たないその距離はしかし、自在に宙を滑る木刀が阻んでなかなか縮まらない。
木刀の怒涛の連撃をステップと体捌きでかわしつつ、ゼルの焦点はナツハから木刀へと切り替わる。
空間固定能力で木刀を封じてしまおうとしたのだろう。
「まぁ、そうくるわよね」
ナツハが静かにそうつぶやいた。
木刀自体の動きはそう速くはない。が、ごく近距離でこう毎回死角に移動されると、視界に入っている時間は極端に短くなる。そこに予測しにくい動きを加えればなおさらだ。
しかし、それは裏を返せば、ごく狭い空間しか移動していないということだ。
ゼルが木刀の一撃をかわしざまに、大きく後ろへ跳躍する。
どうやら対処法に気づいたようだ。
そう、距離さえとってしまえば、どんなトリッキーな動きをされようと、木刀ほどの物ならば容易く視界に収められる。
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