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「…楽しそうにやってるんじゃなかったのか?」
「君が別の世界で生きて行く事を知っているからね。それが永遠の別れだとしても嬉しい事なのさ」
「はは。そうか。俺は愛されていたか。…じゃあ、俺も精一杯生きないとな!」
「…あとそれと…」
「ん?」
「それ。その扉。我慢弱いから」
「は?」
そっと扉の方へ顔を向ける。…何だか覆いかぶさるように扉が曲がって見えるんだが。まるで、今から捕食しますと言わんばかりに…。と思ったところで、俺は扉に飲まれ、ついでに意識も呑まれた。
その砂漠には珍しい一陣の風が吹き抜ける。
「人格形成、自我形成、ともに良好。充分な結果かな?」
少年がくぐった扉はもはや消失している。それでも彼女はそこを見つめ続ける。
「僕ができるのはここまで。僕が託した[全知]が君の幸せの礎にならんことを。…さよなら。そして、いってらっしゃい。僕の愛しい子…」
そうして彼女は、まるでそれが必定であるかのように砂へと還っていった。それが自身の消滅と知りながら。
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