一章 神は“主人公”を選ぶ

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 いつぐらい前のことかは真琴ですら正確には思い出せない。  少なからずいるだろう。 文化祭でバンドをやるだとか、銀行強盗を捕まえるだとか、本の中の哀れな主人公を助けてあげるだとか、あるいはお金持ちになりたい、お腹いっぱい食べたいなどの自己本位の妄想をしたことのある者が。  真琴の妄想もそのうちの一つだった。 (思い返せば痛々しいが、確かあん時は色々あって世界に絶望してたんだよな。それで柄にもなく祈ったんだっけか) ――この世界をどこかの誰かが助けてくれればいいのに。 「まあこの空間なら誰だってちょっとは疑うさ。それより――これはあん時の借りを返せ、ってことだよな?」 「ええ、アナタは願い、アナタは救われました。そしてアナタとの誓約には『――助けてくれたなら、絶対に恩返しはする』とありましたから」  幼かった、夢と思っていたとはいえ何とも無茶な約束をしたものだ、と真琴は思わずため息をつく。  本来なら真琴は単に祈っただけ、別に約束をしたという自覚がないのだからこんな誓約守る必要はないのだろう。  だが。
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