序章 物語の限界

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「ただいま……」  街でも一番安い宿。ボロボロのドアを開けるとベッドで眠る戦士と魔法使い――オウエルとミナの痛々しい姿が目に入った。  隣に座って微弱な治癒魔法を使い続けている僧侶――ユキは限界が近いのか顔が真っ青だ。 「あっ、ルーナさん。……どうでしたか?」  ルーナに気付いたユキが心配そうに様子を伺ってくる。それも当然だろう。なんせ前の街では本当にわずかな資金しか貰えなかったのだから。  前回と同じになることを恐れるユキに、懇願の末宿代以外は貰えなかったことを伝えるのは本当に辛かった。ご飯代すら貰えなかったから今日は空腹を耐えるか、魔物を狩って食べなければならない。 「……ユキ、実はね? ――――」 「そう、ですか……。だ、大丈夫ですよルーナさん。今までも、何とかしてきたじゃないですか……」  事情を伝えているうちに泣いてしまったからだろう、ユキは自分が泣き出したいのを堪えて必死にルーナを励ます。しかしその語調がユキの絶望を表していた。  勇者失格だな、とルーナは未だに止まってくれない涙を必死に拭いながら心の中で呟く。  パーティーを引っ張っていかなきゃならない自分がユキを失意の底に落としたあげく心配までしてもらうなんて。  ルーナは旅の中で初めて見せた涙を流しながら、この旅の限界を感じ始めていた。
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