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月明かりは舞台をつつみ
さぁ
始めましょう
貴女が主役の舞台を
ピエロはそう言い
前座を終えた
けして演目に出演するつもりはなかった
仮面を被り
面白おかしく
皆を楽しませ
演目に花をそえる
それが彼に与えられた仕事であり
生き甲斐だった
演じてる人や
観客の
笑顔を見るのは嬉しい
でもしょせんピエロは
引き立て役
演目が終われば
忘れられる
ピエロはあの舞台にいつか
立てると思っていた
公演をかさねるうちに
自分はあの舞台には立てない
しょせんピエロ
笑われる立場でしかない
だからピエロはピエロらしく
傷ついても辛くても
笑っていた
あのときまでは
雪のふる寒い日
一人の少女が劇団にやってきた
聞けば前も他の劇団で舞台に立っていたらしい
その子が来てから何回か演目を重ねたある日
ピエロは
とある木下に来ていた
演目を演じてる
自嘲しながら
演じてる
少女はそれを見て
こう言った
演じれば良いのに
ピエロは
ぼくが立っちゃ駄目だよ
ぼくは笑われるのが仕事なのさ
少女は悲しそうな表情で
無理に笑ってる姿を見たくない
そう言って
テントにもどっていった
本当の思いは
うまく隠していたのに
少女には
見えていた
ピエロにもそれは
わかった
でも明日もまた前座でピエロを演じる
翌日
前座が終わり
舞台の袖に引こうとしたら
少女に捕まれ
仮面を脱がされ
洋服を着替えさせられた
笑顔で少女はいう
一緒に舞台に立ちたいと
ピエロは引っ張られて
舞台にたった
支えたいから
ずっと傍で
だから
本当の笑顔見せて
そう言われた
ピエロは泣いていた
これから
ピエロの舞台は
始まる
あかるい月明かりは舞台を包む
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