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「どうして…お前が……」
抱き上げた胸からは大量に流れ落ちる血の海で地面を染めている。
抱き上げているのは、お鈴と言うクノ一 で抱き上げたのは新撰組の10番隊長でもある原田左之助だ。
うっすらと瞳を開け佐之助を見つめ優しく微笑む。
「バカ!こんなときに何を笑ってんだ!!」
「だって…もうワタシは死ぬというのに、最後に笑顔を見せたいの…」
力なく微笑む顔からは、もう生気の色が感じられなかった。
いつ息が途切れても、おかしくないというのに震えながら差しのばされた右手が左之助の頬を伝う。
しっかりと、お鈴の右手を握り泣きそうになるのをこらえ少し荒っぽく、お鈴の掌を自分の唇に押し付けた。
「佐之助さん…痛いよ。」
微笑みを崩さず、お鈴はそう言うと同時に透明な液体が滴り落ちてきた。
それは紛れもない、お鈴の涙だ…。
「オレは、お前と共に歩んでいきたいと願っているんだぞ。だから…だから…オレを置いて行くなよ。」
「次に生まれ変わったら、この世は平和に暮らせる時代がくるでしょうか…、その時代で又、佐之助さんと廻り合いたい。叶うことのなかった未来を、来世に託したい…。だから左之助さん……なかないで…」
気が付いた時には左之助は肩を震わせ声を圧し殺して泣いていた。
お鈴の体はますます冷たくなり、さっきまで軽かった体が、ずっしりと重くなって佐之助の体は、お鈴の血で濡れていた。
「お鈴………。お前と又、廻り合いたい……。」
もう答えてはくれぬ、お鈴の体をそっと置き、最後の別れの接吻を交わした。
1865年、春のことだった。
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